どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。
夏の間、カミさんが実家の和歌山で展覧会を開いていたので、その間、退屈しのぎに子供たちを連れて馴染みのない市内を散策していたのですが、途中で素晴らしい本屋を見つけました。
ロンドンに戻ってきても、その本屋のことが忘れられないので、ブログ記事にしました。
アーケードをくぐり抜けた先に… なんだこの本屋は!
日本一時帰国の際には、毎回カミさんの実家 (下津) に数週間ステイするのですが、和歌山市に出てくると必ず立ち寄るのが、ぶらくり丁と呼ばれる商店街にある「クロスロード」というレコード屋。
そこの店長さんは、何年かに1度しか顔を出さない僕のことを覚えてくれているのがとても嬉しい。
でもって、この店では、たいてい僕の探しているものがすぐに見つかる。
ところが今回はタイミングが悪く、僕が来るちょっと前に、中国から訪れたコレクターの方がレコードをどっさり買い占めていったらしく、お目当てのジャズのセクションがほぼ “empty状態”。
「… 無念。」
無念ではあるが、ここまで来てこのまま帰るのはさらに悔しいので、とりあえずバーニー・ケッセルのレコードを一枚購入して店を出た。
横断歩道を渡り、娘といっしょに地元感を感じさせる個々の店を覗き見しながら、西へ西へと歩いていくと、そのうちアーケードの終わりに来てしまった。
「どうする、チャンドラ?」
「う〜ん。」
僕の脳内にあるレコード探知機が右斜め方向に何かがあると言っているので、とりあえず信号を渡って、北へ向かう。
すると案の定、とある店の狭い入り口の外に置かれているワゴンに貼られた「中古レコード・300円・税込」の札が視界に飛び込んできた。
ドアのほうに目をやると、その隣にはモザイク模様の文字で「本町文化堂」と書かれていて、店構え的にはイギリス国内の商店街に点在する「チャリティー・ショップ」に似たものがある。
ワクワクした父親の目を見て、絶望感を隠せないチャンドラをよそに、その父親は店の中に入っていった。
世の中に必要な本屋
いざ店に入ってみると、チャリティーショップではなく、普通の本屋だった。
…と、はじめは思ったのだが、何かが違う。
「普通の」本屋ではない!!!
どえりゃ〜、国際的なのである。
えびふりゃ〜どえりゃあうみゃあだぎゃ〜!
まず並んでいる本からして、何か相手の術中にハマったような気がして、危険を感じざるを得ない。
店内では新書と古書?と雑誌が入り混じっており、さらには、並んでいるそれらが選抜を生き抜いた強者たちという雰囲気を漂わせていて、額に汗をにぎる。(額は握ることなんてできなくてもだ!)
選抜で敗れた負け犬たちの行き先はおそらく、女主人がレジの下に隠し持っている血に染まったシュレッダーの中であろう。
ここでは、店内をストロールするうちに「自分は世界に包まれている」という感覚を、自然に思い出させてくれる一方で、自分が「これらの国の名前は知っているが、実はその中身については何も知らない」という事実に気づかされる。
そして本棚には、各国への興味を引き立てるようなタイトルがズラリと並んでいる。
そんなんだから、思わず本に手が伸びてしまう。
(レジの裏の別室コントロールルームで、監視カメラ越しに僕の行動を見とどけたセキュリティーが、「また一人落ちたな」と含み笑いをしているのが脳裏に浮かぶ。)
チッ…
インターネットが普及して以来、社会が一気にグローバル化し、世界中の情報にアクセスできるようになったのはいい事だけど、AI が過去の閲覧記録から私たちの興味を認識し、私たちの関心を引きそうな情報やコンテンツを勝手に次々と提示してくる。
ここで思うことは、国際情勢を含め、世の中には少し手を伸ばせば興味を引かれる事柄であふれているのに、(そしてそれらを理解することは、長期的に見れば自身のサバイバルに関わる重要な要素となってくるのに)グローバル化の進展とともに、自分の快楽や関心がAIによって限定され、結果として多くの物事が視界から外れてしまう状況が生まれているように感じる。
これはかなり危険な状態である。
でもって、これと似たようなことがたくさんの本屋でも起こっているような気がするのだが、この「本町文化堂」は他の本屋とはルールが違う。
まず、来店した客が自然に世界に入っていけるように本の配置がなされており、それでいて特に最新刊の著書が優先されているわけではないので、選ぶ側がトレンドに誘導されることがない。
さらには、興味をそそるタイトルの古書が、同じテーマの比較的新しい本の間に混じっているので、チャリティー・ショップで掘り出し物を見つけるような楽しさも味わえる。
世界を知るということは、他の国で暮らす、私たちと同じ人間の文化や生活に共感できるようになるための入り口となるので、今の時代を生きるのに最も重要なことのはずです。
そして、グローバル化した今の時代、スーパーマーケット的なポリシーで運営される本屋が大多数を占める中、人間にとって大切なゾーンに入っていくための、これまた入口的なポジションをとっているこの「本町文化堂」の役割は、社会にとってとてつもなくデカいと思う。
今回購入した書籍
というわけで、今回購入した本を(すべてしっかり読むという自戒を込めて)ここに記しておきます。
初日は本を選んだは良いが、サイフの中身が200円未満で断念。
2日後に戻って来て、これらを購入。
① 13歳からのイスラーム
長沢栄治
② 中学生から知りたいパレスチナのこと
岡真里・小山哲・藤原辰史
③ ナイル河紀行
野町和嘉
④ 検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
小野寺拓也・田野大輔
その3日後に再び立ち寄ってこれらを購入。
① Spectator vol.50 まんがで学ぶ メディアの歴史
② ネット右翼になった父
鈴木大介
③ 現代中国を知るための54章
藤野彰
最後にカミさんに頼んで、さらに2冊 + Tシャツのお土産
① 中東を学ぶ人のために
末近浩太・松尾昌樹
② 中学生から知りたいウクライナのこと
小山哲・藤原辰史
③ 積読 Tシャツ ー Buy more books than you can read, it must be all right. と書いてある。
(素晴らしい!)
いやぁ… 面白い本屋でした。2階のスペースではイベントが行われ、さらにPodcastも配信してるということで、こんな素敵な本屋が存在して地元の人はラッキーですね。
次はいつになるかわからないけど、和歌山に来た時はぜひ立ち寄らせていただきます。
それではまた。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Uncovering Wakayama’s Literary Treasure: Honmachi Bunkado Bookstore