洋書レビュー

“How They Broke Britain” 要約: 保守党がメディアと連携して国を破壊した実態とは?



どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。


今回紹介する洋書は、LBC (the London Broadcasting Company) ラジオ局の人気プレゼンターで、ジャーナリストの、ジェームズ・オブライエンさんによる著書 “How They Broke Britain“。

image taken from Amazon.co.uk



内容はと言うと…


メチャメチャ濃いです



病み過ぎていて、「えっ、ウソ? マジで? 」というショッキングな事実の連続で、正直読んでいて腹立ちます。


発売されたタイミングから、僕はこの本が今年(2024年)の7月に行われたイギリス総選挙までに完読すべき賞味期限付きの本だと思って気合を入れて読んだのですが、現在イギリスで起こっていることを考えると、全くそうではありません

選挙後に、ある事件をきっかけにして起こった数々の暴動を例にとってみても、たくさんの人たちがSNS漬けになってしまっている今の時代、われわれはメディアによって次々と送り込まれてくる誇張された事実や、偽りのニュースを鵜呑みにしてしまう傾向にあり、とても危険な状態にあります。



そんな中、同意見を持った人を集めて放送するのではなく、かかってくる電話の相手とライヴで議論をぶつけ合いながら放送する形式をとっているLBCのプレゼンター」によって書かれたこの本は、政治家のルール違反が当たり前となって、脳ミソが麻痺状態となってしまっている一般市民が理解していないであろう真実が書かれた貴重な本です。


メディアの利用、怠慢、傲慢、そしてとんでもないウソによって、イギリスという国を破壊した最悪な人物たちを、ジャーナリストとして、そしてイギリスの最もポピュラーなラジオ局のプレゼンターとして、毎日イギリスの情勢にどっぷりつかっている立場から10人選んで、皆さんに何が起こっていたのかを、この本の中で怒りとともに伝えています。

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メディアによる支配

image by Naomi Booth

と言うわけで、イントロでも述べたように、今の時代一番厄介なのがこのメディア。

僕は、はじめに取り上げられているこの3人、Rupert Murdoch (ルーパート・マードック)、Paul Dacre (ポール・デイカー)、Andrew Neil (アンドリュー・ニール)の事を、この本を読むまで全く知らなかったのですが、とにかくたくさんのメディアが一握りの人間によって管理されているというのは恐ろしい事実です。

① Rupert Murdoch

まず、1番初めのオーストラリア生まれのルーパート・マードックは、オーストラリア、イギリス、アメリカを中心に多くのメディア企業を所有・支配していて、世界的に強大な影響力を持っている人物。

イギリスの新聞だけでも、The SunThe TimesThe Sunday TimesNews of the World (盗聴スキャンダルにより2011年に廃刊) と、かなりのラインナップ。


(さらににアメリカでは Fox NewsThe Wall Street JournalNew York Post、あと2019年にディズニーに買収されるまでは映画製作会社の20th Century Foxも!)

これだけの数のメディア企業を独占していていたら、メディアの集中化が進んで、一般人が目にしたり耳にしたりする情報も、当然マードックが所有するメディア源から入ってくる確率が高くなるため、多様な意見や視点が排除されてしまうことに…


それでいて、一般市民はショッキングなニュースが大好きです。特に全てがデジタルな時代になってからは、新聞社内のジャーナリストも、読み手や消費者の興味を惹くために大げさな記事を書く傾向にあります。

もしマードックのように億万長者で、たくさんの新聞社を所有している人物が、自分の利益のために、モラルのかけらもない、平気で嘘の記事を書くピアーズ・モーガン(Piers Morgan)のような人達に好き放題やらせてしまったらどうなるか?


ってのが、残念ながら、現在イギリスやアメリカで実際に起こってしまっていることです。


さらに、マードック自身は、右寄りの政治思想を支持する傾向があり、所有するメディアを利用して政治に大きな影響を与えることができてしまいます

イギリスを「どん底状態」に落とし入れることとなったブレクジットが起こる前、ロンドンの無料日刊新聞 “Evening Standard” のシティの編集者が、マードックに「なぜ自分はそんなに反EU (ヨーロッパ・ユニオン)なんだ?」と聞いたところ…

「そりゃお前、簡単な理由からさ。Downing Street に行けば、保守党政府の連中は、俺の言うことならなんでもやってくれるが、Brussels (ベルギーにある、事実上ヨーロッパ・ユニオンの首都) に行ったところで、俺のことなんて何も聞いてくれねぇからな。」


… ってな答えが返ってきたそうです。
(完全に保守党とつながってるやん!)

Paul Dacre

マードック所有ではありませんが、イギリスにはさらにDaily Mail(デイリー・メイル )という右寄りのタブロイド紙が存在ます。


2018年に至るまで、15年以上ものあいだこのタブロイド紙の編集長を務めてきたのが、ポール・デイカー


彼はマードックとは少し違ったタイプで、自分が世界を見る視点が、世の中で唯一の正しい見方だと信じていて、それを突き通すためにメディアを利用して、敵を攻撃し続けている病的な人物。

そんな人なので、当然のように汚いやり方で相手の意見を攻撃したり、嘘の記事を書いたり、とんでもない中傷誹謗までやらかします。



そして、彼の書いた記事の内容に対する理由が求められて、インタビューの機会が与えられても、決して表には出てこない卑怯な人物です。

ちなみに、デイカーの “Daily Mail” は偽りの記事が多すぎるため、ウイキペディアの従業員から排除の要請があり、サイトの信用を傷つけるという理由で、ウイキペディアから追放されています


Andrew Neil

アンドリュー・ニールは、ルーパート・マードックの下で “The Sunday Times” の編集者をやってきたということで、新聞の編集方針や政治的立場においても、2人の関係は非常に深いです。(その後 “Daily Mail” にも貢献。)



そしてショッキングなことは、そんな彼が長年BBCで主要な政治番組のホストを務めていたという事実。 

BBCと言えば、ニュートラルな視点から、国民にニュースを伝えているイメージがありますが、彼が勢力を振るっていただけに、実際はそうではなかったようです。



実際、ネオリベラル経済、ブレクジット、移民問題に対する懸念といった表向きの理由で人種差別的な攻撃を正当化することに同情的ではないジャーナリストに対して、裏でイジメや給与面での嫌がらせを行う傾向があったようで、かなり酷い状況だったと言われています。

BBCへの入社を考える際に、自分が過去に右寄りでない政治的な活動と関係を持っていた場合、みなさんメチャメチャ悩むそうです



BBCのジャーナリストもマネージャーも、自分たちがどう出るかによって、いつ責められたりイジメられたりするかわからない、という恐怖の中で生きている状況で、例えば、もし事実を報道しようとすると次のような事に…

パンデミックで国がロックダウン中、ルールを作った保守党政府の役人自身がそのルールを破っているのは一般市民にも明らか。BBCがそれを報道しようとすると、「保守党を意図的に攻撃しようとしている」と非難され、さらには他の右寄りメディアによって「BBCが公平な見解を持っているかどうか疑わしい」と逆に批判される状況に陥ってしまう。(右寄りメディアの報道が多いため、国民は自然とそちらを信じる流れができてしまっています。)

⚫ EUからの離脱に貢献したNigel Farage (現在 Reform UKの議員)などが、Brexit を達成するためにFacebookを利用して、National Front や BNP などの極右サポーターを標的にしていた事実をBBCが掴んでいても、いろんな角度からかこつけて脅迫されてうまく報道できない。


…といった結果に終わってしまいます。


アンドリュー・ニールは、2020年にBBCから離れると、2021年に”GB News“を立ち上げましたが、その一部の番組が極右人物を登場させたことから、議論を呼んでいます。
(現在では、極右びいきのナイジェル・ファラージもホストの1人。)



このように、国内の大多数のメディアが右寄りで、保守党とスクラムを組んで国をボロボロにしてきただけでなく、極右勢力までもがメディアを利用して影響力を伸ばしてきました。そのため、労働党が政権を勝ち取ったとしても、非常に厳しい未来が待ち受けています。

Brexit

image by Andy Newton

現在のイギリス経済の悲惨な状況を作ったのが、このブレクジット」。


保守党議員たちは、政権交代に至る最後の最後まで、イギリス経済の低下の最大の原因である「ブレクジット」を意図的に話題から除外してきました。

④ Matthew Elliot

マシュー・エリオットは、EU離脱を支持するために設立されたキャンペーングループ”Vote Leave” のダイレクター。



まず、「Vote Leave」キャンペーンが選挙法違反で訴えられていた際、彼は調査に応じず、提出すべき書類も提出しませんでした。そして、その調査結果が明らかになる2週間前に、BBCでのインタビューがセットされましたが、結局インタビュアーも深く突っ込めないまま、彼に違反を否定する場として利用されて終わってしまいました。


そしてこれが、右寄りのEU離脱を支持するメディアが大きく出ることができる状況を作ってしまいました




結局、規定された以上の額を使ってキャンペーンを行っていたことが発覚し、さらに調査に応じなかったことや偽の情報を流していたことにより、膨大な罰金を支払うことになりました。しかし、この時点で既にEU離脱は達成されており、彼らにとっては痛くもかゆくもない状況でした。

EUに残るか?それともEUから離脱するか?という国民にとって超重大なことが決められる場で、こんなルール違反が結果的に通ってしまうんです。


BBCがどんな状況だったかについては先述した通りですが、さらに当時の首相であったテレサ・メイのシニアアドバイザー2名が “Vote Leave” の重役を務め、都合の良いコメントをしていた時点で、すべてが操作されていたと言えるでしょう。(その1年後には、”Vote Leave” の顔となっていたボリス・ジョンソンが首相の座に就きました…)



エリオットはまた、EU離脱よりもかなり前の2004年に Tax Payers’ Alliance(TPA) という、政府の支出削減や税制改革を目的とした団体を設立し、表向きは「納税者の利益を守る」という姿勢で活動していますが、保守党系のシンクタンクや財団から資金提供を受けていることから、裏では大企業や富裕層のために政策を推進していると見られています。

(ちなみに政府の支出削減は、社会福祉や公共医療の削減につながります。)



さらには、自由市場経済の促進や、規制緩和を支持する Institute of Economic Affairs (IEA) ともつながっており、こんな人が国民の味方のわけがありません。

⑤ Nigel Farage

ナイジェル・ファラージは、1993年に UK独立党/UK Independence Party (UKIP)を立ち上げて以来、英国の離脱を主張してきた人物。

極右ともつながっている彼は、しばしば日常のちょっとした出来事を、何かにかこつけて移民問題と結びつけてストーリーを作り上げます



ストーリー自体は常にこじつけで、胡散臭いものが多いのですが、それを何度も繰り返し話すことで「移民は脅威である。」というアイデアをネイティブの心の中に徐々に植え付けていきました。

さらに、保守党のメンバーの中にも、移民問題やムスリムの人達、難民に対して、ナイジェル・ファラージと同じ概念を持っている人が多数存在


公の場でそのようなことを自分たちの口から話せば、党内での地位が危うくなるため、ファラージのような人物は彼らにとって非常にありがたい存在だったようです。

ファラージの作戦は、まず演説やメディア出演を通じて「ネイティブの血が移民のせいで薄まりつつある。」「イギリス国民は、移民に仕事が奪われている。」「EUのブリュッセルに支配されている。」などと繰り返して、仮想の敵を作り上げておいて、その後「私を支持したらそれを食い止めて、皆さんを守ってあげますよ。」という行動をとる*ポピュリズム政治家の典型。



このようなの戦略が、EU離脱を支持する有権者の心理に大きな影響を与えていきました。


そして、次第に移民への不安感や敵意をイギリス人の心の中に増幅させた彼は、2016年の国民投票で「Leave」キャンペーンを強力に支援し、結果的にイギリスはEUから離脱することとなりました。


2014年に、ナイジェル・ファラージは、UKIPに対してのジェームズ・オブライエンさんによる批判にチャレンジするために、LBCの彼の番組に出演したのですが (下の映像)、…とにかく言い訳の上に言い訳をかぶせて、ウソを指摘されると話題を他へ移そうと試み、ピンチになると自分は被害者だアピールして、埒があきません。





*ポピュリズム (populism)
既存の権力構造やエリートを批判しながら、自分たちは一般市民の声を代弁しており、市民の利益を最優先に考えている味方であると主張して支持を集めようとする政治活動。

⑥ David Cameron

個人的な自惚れから「EUに残るべきか、それとも離脱すべきか?」という、国を危険にさらすようなギャンブルに出た結果、彼自身にとっては想定外だった「EU離脱」という事態を招きました。

イギリスのEU離脱の直接の原因を作り、その結果、半世紀にわたって前任の政治家たちが築き上げてきた経済と外交の努力を台無しにしてしまった最低な人物と言えるでしょう。



デビッド・キャメロンは、貴族とも血の繋がりがある、とても裕福な家系に生まれで、王室系も通うプライベートスクール、イートン校 (Eton College)を出た後は、オックスフォード大学に入学。


大学に入る前のギャップイヤーでは、保守党の議員の曽祖父母に、国会での仕事を経験させてもらえる機会が与えられるほどのコネの持ち主。

というわけで、これといったフロントラインでの政治経験もなしに、家族の背景や学歴を通じて得た人脈によって、43歳という若さで総理大臣になってしまった、かなりのお坊ちゃんです。


キャメロン政権が発足した2010年当時は、2008年の金融危機とそれによって起こった経済的な不況の影響で、イギリスでは財政赤字が膨れ上がっていました。


そこで「2008年の金融危機は、アメリカのサブプライムローンのスキャンダルではなくて、労働党による公共機関への過度の投資のせいで起こったんだ!」とでっち上げて国民を騙し込むと、財務大臣のジョージ・オズボーンとともに、公共機関への投資を大幅にカット。

これによって、NHS (イギリスの公的医療サービス) への資金削減が行われ、慢性的なスタッフ不足、患者の待ち時間の増加、病院の資金不足といった問題が起こり、「救急車の到着の遅れ」「救急車の運転手と看護婦、そして若手医師によるストライキ」など、多くの国民がその影響を受けることとなりました。



さらに、失業給付や障害者向けの福祉サービスなどの予算も削ったので、低所得者層や障害者の生活が厳しくなる状態に。


でもって、「私たちは、この苦しい状況をみんな一緒に戦っているんだ。」なんて言っておきながら、2012年には、国内のトップの高収入者たちの収める税金をカットしています。



これによって、社会的格差が拡大し、貧困問題が深刻化するわけですが.、国民の不満が蓄積しているこのタイミングで…

前に述べた、UKIPを率いるナイジェル・ファラージが入ってくるわけです



このUKIPの台頭によって「彼らに保守党から票が奪われる。」という懸念が高まり、キャメロンは、EUに対する国民の不満を取り除いてUKIPの影響を抑えるために、「2015年の総選挙で保守党が勝ったら、EUに関する国民投票を約束する。」なんて言ってしまったのです。


⑦ Jeremy Corbyn

ジェレミー・コービンは、2015年から労働党の党首を務めましたが、党の中でも、かなり左派の社会主義者として知られています。


さらに彼は、長年にわたって、パレスチナの権利を支持してきた人で、イスラエル政府によるガザ地区やヨルダン川西岸地区における占領や入植活動に対して、強く反対してきました。

ジェレミー・コービンが、イスラエル側ではなく、パレスティナ側を支持している事実には、僕も賛同しますが、’House of Common’ に超過激派の反ユダヤ人主義の人をお茶に招いたり、アーティストが自分で描いた反ユダヤ人的な壁画をが壊されるのを嘆いていると、弁護のコメントをするような行動をとったりなど、党のリーダーとしては、かなり痛いですね。


一部の党内のメンバーや支持者が、ユダヤ人に対して差別的な言動を行った際にも、対応が遅すぎたため、これでは自身が反ユダヤ主義者であると思われても仕方ありません。


結局のところ、彼は…

パレスチナ問題のような国際的な人権問題に集中しすぎて、「ブレグジットという国内の重要問題に全力投球していなかった」。


という感じでしょうか。

ブレグジットの国民投票の際、労働党はEU残留を支持していましたが、80年代から同じように労働党の党員をしている “Diane Abbott/ダイアン・アボット” (僕の住んでいる北ハックニーを代表するMP!)によると、ジェレミー・コービン自身は、もともとアンチ・ヨーロッパ共同体」。



というわけで、党の立場として残留キャンペーンを行いつつも、熱意不足でブレグジットに対する明確な対策を打ち出すことができずに、積極的なリーダーシップを見せなかったことが、党内の分裂を招き、党内の支持者までが離脱を支持するに至ってしまった、という結果に終わってしまっています。


After the Brexit…

image by John Cameron

ブレクジット後は、ブレクジット自体がすでにイギリス経済に大打撃を与えている事実に加え、スクラムを組んでいるメディアと保守党が、さらにやりたい放題したため、国が瀕死状態となってしまいました。

⑧ Dominic Cummings

ドミニク・カミングスは、’Vote Leave’ のダイレクターを務めていた人物で、義理の父は「貴族」、カミさんはアンドリュー・ニールが会長をやってる政治関連の雑誌「ザ・スペクテイター」の編集者という、結構なコネクションの持ち主。



2003年には、’New Frontier Foundation’ というシンクタンクを創設して指揮していたようですが、そこでの会議のメンバーには、UKIPの会計担当者や、ヘリテージ財団(社会保障の削減、環境規制の緩和、移民制限の強化などをモットーとする保守派)関係、’Fox News’ や ‘Daily Telegraph’ にレギュラーで投稿している人物などが参加。

そのシンクタンクでは、

BBCは、保守党にとって死すべき敵


と掲げていたらしく、BBCを徹底的に調査するネットワークを作り上げて、BBCの信用を落とす材料を探し出し、ライバルメディアに情報を流すことを押し進めていたそうです。


さらには、「BBCの評判を落とすことによってのみ、保守党は長期にわたって繁栄していくことができる。」とも。



2004年の9月に彼が投稿していたブログによると…

保守党は、これら3つの事を念頭に置いて、物事を進めていかなければならない。

BBCの信用を低下させる
アメリカのFox Newsと同等なメディアの創設(討論ラジオ番組・ブロガーなど含む)して、たくさんの視聴者をつくる
テレビの政治的な宣伝を禁止することをやめさせる


さらに付け加えとして「政府の役人は、BBC Radio4 Today に出演することを避けるべし。」と言うのもありましたが、これに関しては、のちに彼が、ボリス・ジョンソンのアドバイザーとして働いていた時に、実際に起こっています。

とにかく彼はメディアを使った戦略に長けていたとのこと。


ボリス・ジョンソンが首相になった際、彼はアドバイザーに任命されて、EUからの離脱を最後までやり遂げるための戦略をガンガン練っていったのですが、彼の面白いところは、ボリスを助けつつも、保守党そのものには強い嫌悪感を抱いていたという点。


保守党の官僚主義にフラストレーションを感じ、伝統的な保守党メンバーをエリートとみなして軽蔑したため、結果的にボリス・ジョンソン政権と対立する結果となってしまったようです。

⑨ Boris Johnson

デビッド・キャメロンと同じで、プライベートスクールのイートン校 (Eton College)を出ています。

とにかく学生時代、そしてブリュッセルでジャーナリストやっていた頃から、事実を誇張したり、ウソをでっち上げたりと、メチャクチャやってます。

基本的にふざけているんで、もうどうしようもないです。



ボリス・ジョンソンは、もともとデイリーテレグラフで働いていたのですが、彼をブリュッセルに送ったそこの編集者も、エンターテイナーとしてロンドン市長をやるぐらいならいいが、コイツに国をまかせたら絶対あかん、と言っていたそう。


なんて言っていたその編集者も、彼をしつけようとはするが、クビにはしませんでした。

そんなこんなしているうちに、彼はBBCにも登場するようになり、女性がらみのスキャンダルを含め、UKメディアも権力を持った保守党の人間たちも、彼のやりたい放題を面白がって放っておくので、ボリス・ジョンソンは誰にもタッチできない怪物になっていきます。



ボリスは2004年に、元保守党のリーダー、マイケル・ハワードによって、シャドウキャビネットの文化芸術担当大臣に指名されていたのですが、ボリスの行動のあまりの酷さに、マイケルは彼に大臣を辞任するように言いますが、ボリスはこれを拒否。


アメリカのドナルド・トランプと同じように、人から非難されれば、自分がやったことを全て否定し、絶対に謝らず、次から次へと嘘をついて、どんどん巨大化していきます。

やりたい放題がとがめられても、何も真剣には取り扱われないという環境を作り上げてしまい、尋問するインタビューアーも最後には笑うしかないので、これが観覧者や投票者にも彼がジョーカーだという印象を作り上げてしまいます。



こうして、彼の何をやっても許されるというアティチュードが、メディアオーナーや編集部から、選挙の方にも伝染していき、全てが堕落していきました。

彼の「暴挙」が、章の最後の方に5つほど書かれているので、ここに訳しておきます。

⚫無法政権に拉致されたイギリス国民への彼の裏切り

国外で、一方的な理由でイギリスの一市民が拉致されてしまった際に、その釈放に向けて務めるのが外務大臣の仕事であるのに、2017年にイラン系イギリス人女性のナザニン・ザガリ=ラトクリフさんがイランで家族を訪問中に、スパイ活動の容疑でイランの政権に拘束されて牢屋にぶちこまれてしまったにもかかわらず、事態を真剣に取り扱わず、逆に誤解を招くようなコメントをしてひどい目に遭わせた。


⚫元KGBスパイとの謎めいた密会

2018年、イングランド南西部のウィルトシャーで、元ロシア外交官でイギリスの情報機関で二重スパイとして働いていたセルゲイ・スクリパル氏とその娘ユリア氏が、有毒な神経剤が含まれた香水の使用によって重体となりました。この事件で、ロシアが裏で糸を引いている可能性が高いと見られ、NATOの会議が開かれました。(イギリス当局は、ロシア人2名を容疑者とみなしていました。)

その後、ボリスはNATO会議から直接、元KGB(旧ソ連の秘密警察)の中佐で、ウラジーミル・プーチンにも仕えたことがあるアレクサンダー・レベデフの息子、エフゲニー・レベデフが所有するイタリアの別荘に立ち寄り、パーティーに参加。そこでボリスがどんな会話をしたかは謎に包まれたままです。

しかし、2019年12月に内閣総理大臣の座を獲得したその日に、不倫相手のキャリー・シモンズとともにレベデフが主催したクリスマスパーティーに参加しており、翌年、ボリスはエフゲニー・レベデフに上院議員の座を与えています。

2022年には、カナダ政府が、ウラジーミル・プーチンのウクライナ侵攻に関与した14人のうちの1人がアレクサンダー・レベデフであることを認めました。また、イタリアの情報機関は、エフゲニー・レベデフがプーチンと友好関係を維持していることを確認。

このような行動をとっている一方で、ボリス・ジョンソンはウクライナに対して同情的な姿勢を示しているという、その場の状況に合わせて、自分にとって都合の良い対応ばかりしていました。


ブレグジットの際の、北アイルランドに関しての嘘

Brexitが実現すると、

北アイルランド → UKの一部
アイルランド共和国 → EUの一部

となります。

北アイルランドで長年続いていたユニオニスト(Unionist)とナショナリスト(Nationalist)の血なまぐさい戦いに終止符を打った1998年の「グッド・フライデー合意」を維持するために、2019年に「北アイルランド議定書」が発表され、北アイルランドをEUの単一市場の一部として残すことにしました。これにより、北アイルランドとアイルランド共和国の間に物理的な国境を設けることを避け、代わりにアイルランド海に検問所を設けることが決まりました。

ところが2020年、ユニオニストの支持を得るために「アイルランド海に国境を設けるなんてことは、絶対にしない」と平気で嘘をつきます。(これは、UK本土から北アイルランドに移動する商品に対するチェックポイントを設けるというEUの規則に反する発言です。)


議会制民主主義の腐敗

No-deal Brexit(イギリスがEUと合意を結ばずに離脱すること)が、規制の違いやEU時代には発生しなかった関税の影響で、イギリスのビジネスにとって非常に危険であるという事実があるにもかかわらず、これに異議を唱えた党内の21人のMPから一方的にWhipを取り上げ、党から追放。

これにより、No-deal Brexitが理想のやり方であるという空気が作り上げられ、党内の過激な愛国主義者に都合の良い状態となってしまいました。結果として、選挙で勝つためには、極右で外国人嫌いのナイジェル・ファラージの支援が必要な状況が生まれてしまったというオチ。

2016年の法案は、EUに屈したように見なされ、民主的な方法で進めようとする姿勢は障害と見なされました。さらに、親ヨーロッパ的な政治家は、障害を助ける共犯者だと非難。議会では、保守党内が事の深刻さを理解できない者や、理解できないふりをする臆病者で埋め尽くされないように、ボリスがEU離脱の際に国民に約束した虚偽や危険性を暴露し続けてきましたが、最終的にはそれを止めることができませんでした。

議会で、ボリスとその取り巻きを打破する民主的な提案が出された際も、彼らは法律を無視して議会を停止させるという卑劣な手段に出ました。結局、ボリスはその年その年で自分に都合の良いことを好き勝手に行い、不満の声が出ればそれを抑え込むか、他の何かのせいにして責任を回避する、ということを繰り返してきました。


致命的なCOVID-19の対策

ボリス・ジョンソンのアドバイザーであったドミニク・カミングスによると、パンデミックが確認された2020年2月の半ば、主要な党員のほとんどはスキーで忙しく、3月の半ばまでは、ドナルド・トランプからのイラク爆撃へのイギリスの参加要請に対応することに追われていました。ボリス自身は、飼い犬に関するメディアの扱いに不満を持って憤慨する彼女(キャリー・シモンズ)の対応に追われていた、とカミングスは語っています。

ジョンソンは、コロナウイルスへの対応に真剣に取り組む気がまったくなく、ウイルスを自分に注射して感染し、何も起こらないことを証明して国民の恐怖を取り除くなどという大胆な発言をしていましたが、結局は自身が感染して苦しむことになりました。もっと真面目に対応していれば、死者はもっと少なくて済んだはずですが、彼にとっては全くの他人事。

さらに、ロックダウン中には政府のオフィス内で複数回にわたるパーティーが開かれ、メディアがそれを隠すための言い訳づくりに加担する状況が生まれました。その後、パーティーへの参加が明らかになった頃には、ジョンソンはすでに首相を辞任しているという状態。
また、辞任の際にも、社会に貢献した人物ではなく、個人的な好みで選んだ人物に称号を与えるという行動を取りました。



というわけで、彼はイギリスの歴史上最も無責任な首相の一人として記憶されることになりました。


⑩ Liz Truss

はい。この人も、最悪ですね。


リズ・トラスは、当初ブレグジットにさえ反対していましたが、その後方向転換し、ボリス・ジョンソンのやり方を傍から見て学んでいました。


ボリスの辞任が近づく頃、国民の知らない裏で設立されてきた右翼的な思想を持つシンクタンクとの繋がりや、ブレグジットとともにナイジェル・ファラージの極右的な見解が反映された流れが、彼女を助けたと考えられます。

そして、彼女は白人ではないリシ・スナクを破り、ついに総理大臣の座に登り詰めました。

2023年9月23日、リズ・トラス政権下の大蔵大臣クワシ・クワーテンは、すでにブレグジットによって経済的に疲弊していたイギリスにさらなる打撃を与える破壊的な「ミニ・バジェット」案を発表。


ミニバジェットとは、高所得者に対する45%の所得税率の廃止、予定されていた法人税の引き上げ凍結、住宅購入者への印紙税引き下げなど、特定の裕福層に利益が集中する政策。


ちなみに、この大蔵大臣は、経済状況に関する予算責任局の2022年秋の予測を公表することを拒否。これによって、国の経済的な健全性が隠されることになり、イギリスは海外からも不信の目で見られました。

予算責任局からの警告を受けた後、リズ・トラスと大蔵大臣による無融資の状況下での推定450億ポンドの減税が実施されましたが、それと同時に巨額の借金がどのように取り扱われたかは謎です。


この政策が最悪のインフレを引き起こし、政府はさらに大きな赤字を抱えることに。


そして結局は、大蔵大臣をクビにした後、自分も辞任。

45日間という短い職務期間中に、約300億ポンドの損害をイギリス経済に及ぼしました。


あとがき/ Rishi Sunak

先ほどのリズ・トラスで合計が10人となりますが、最後にリシ・スナクについても書かれていたので、ここに追加しておきます。



保守党が政権を握っている間の最後の首相でしたが、彼が選んだ人材は酷いもんです。


まず、リシ・スナクは、2022年10月に総理大臣に就任するとすぐに、不名誉極まりないスエラ・ブラヴァマンという人材をを再任させます。



給料が上がらず物価が急騰する中、家賃が払えなくなる人が増え、ホームレスの数も急増しているわけですが…

そんな中、彼女は「ホームレスは生活スタイルの選択」と言い、テント暮らしの人々を「犯罪者」と呼び、それを支援するチャリティ団体に罰金を課すよう求めるという酷い態度を示しました。
(オマエは鬼かっ!


そして、彼女の後任にはブレクジットの原因を作った元首相デビッド・キャメロンが任命されました。状況は改善の兆しがなく、非常に厳しい状況です。



他にも、食費を支えることができない人達が利用することができるフードバンクの不必要性を訴え、彼らは1日30ペンスで暮らすべき、なんて平気で言う人材を、保守党の副議長に任命したりなどしています。

2023年の1月、リシは国民に対して、次の5つの約束….

⚫生活費を和らげるためにインフレを半分にする。
⚫経済を促進してもっと高収入の仕事を増やす。
⚫国の借金を減らし、公共サービスを改善。
⚫NHSの待ちリストを減らし、国民がすぐに診療を受けられるようにする。
⚫生活費を和らげるためにインフレを半分にする。


をしたが、結局どれも果たされませんでした。




というわけで、本の内容は以上となります。



労働党が政権を引き継いだものの、予算が全く残されていないため、こんな状態ですべての分野を同時に満足させることはできません。

そのため、国民の不満を覚悟しながら、まずは一部の分野を犠牲にし、他の分野を改善するという方針でやりくりしています。

しかしながら保守党は、自分たちがその原因を作ったにも関わらず、現在でも労働党への執拗な攻撃を続けています。



僕は、このジェームズ・オブライエンさんによる “How They Broke Britain” という本が、たくさんの人に読まれて現在の状況を理解し、国民が安っぽい「ポピュリズム」メディアに振り回されず、自分のポジションをしっかりと考えられるようになるように願っています。


簡単にまとめてしまいましたが、じっくり内容を知りたい方はこちらからどうぞ。👇


それではまた。

コンカズ

*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Understanding the Current State of the UK: James O’Brien’s Insights on 10 Influential Figures

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