climate changelife in the UK

環境活動家による美術館での抗議活動と、セキュリティ業務に従事する自分の複雑な心境



どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。



僕が働いている美術館では、セキュリティーチェックとして “bag search”(持ち物検査)が時々行われる。


これは、美術館に入る際に、訪問者が持ち込むカバンや荷物の中身を確認するプロセスで、展示品や来館者の安全を守るのが目的です。

近年、ロンドン市内の別の美術館で起こったある事件をきっかけに、しばらく行われていなかった “bag search” の業務が復活したのですが、その事件が「気候変動」と関係しているため、なんとも複雑な気持ちにさせられます。


そんなわけで今回は、ある出来事を防ぐために行われている「持ち物検査」と、その業務に対する自分の葛藤について書いた、モヤモヤの残る記事です。

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Just Stop Oil…?

image by Arthur Edelmans

bag search” とは、通常テロなどの事件が発生し、政府からセキュリティアラートが発せられた際に、一定期間実施される業務。


しかし、ここ数年は「Just Stop Oil」という団体が、化石燃料による環境破壊に抗議するため、美術館の絵画を標的にした活動を繰り返しています。

彼らは有名な絵画にスプレーをかけたり、ハンマーで叩いたりした後、その前に座り込み、化石燃料の使用や採掘に反対するメッセージを発信します。そして、その映像をソーシャルメディアで拡散するのです。



このような抗議活動が頻発しているため、セキュリティ対策として持ち物検査が実施されるようになっているのです。




2022年、僕が働く美術館にも彼らは突然現れ、館内にある巨大な「最後の晩餐」のオマージュ作品の下に “NO NEW OIL” とスプレーで書き、抗議活動を行いました。


幸い作品にダメージはなかったものの、突然の出来事に来館者は呆気に取られた様子でした。


その後、来館者や同僚から聞こえてきた反応はというと…

「Stop Oil だからって、オイルで描かれた絵画を狙うにしても、自分たちが履いてる靴にだってオイルは使われてるんだぜ。なんて奴らだ!」

「みんなが称賛して、見に集まってくる有名な絵画を、わざわざターゲットにして、ダメージを与えようとするなんて、全くひどい連中だ。」



正直、この時点では僕も彼らの意見に同感でした。

気が狂っているのはウチらの方だ!


しばらくの間こうした事件は起こらず、持ち物検査の業務もなくなっていました。

しかし、2024年9月27日、ナショナル・ポートレート・ギャラリーで Just Stop Oil のメンバーが現れ、ヴァン・ゴッホの「ひまわり」にスープをぶっかける事件が発生。



その影響で、僕が働く美術館でも “bag search” が再開されました。



自分のバッグの中を他人にチェックされるのは、今の時代、空港では当たり前のことなので、ほとんどの人は抵抗を感じることがないのですが… それでも、20人に1人くらい (特に年配の富裕層のカスタマー) は、露骨に嫌な顔をしたり、ブチギレたりすることがあります。

「っんだよ、またアイツら現れたんかい。アイツらのせいで、こんな面倒くさいプロセスを踏まんとアカんなんて、ホンマ胸クソ悪いわ。気の狂ったクズのようなヤツらだ!」



このようなコメントを残していく人たちも、ボチボチいるのですが、最近「気候変動」に関する書籍や記事を読み漁っていた僕は、彼らの抗議活動に対する見方が変わってきているため、正直言って、単純に彼らのコメントに同感できなくなってしまいました。


油絵だから「ストップ・オイル」とつなげてしまう人もいますが、実はそうではなく…

多くの美術館・ギャラリーは石油企業のスポンサーシップを受けている


という事実が裏にあるんですね。



ナショナル・ギャラリーや大英博物館などは、実際 “BP“(イギリスの石油会社)などの支援を受けてきていますし、高価なアートが化石燃料産業の「ブランドイメージ向上」に利用されている点も攻撃の理由となっているようです。

さらに、富裕層にとって美術品は単なる芸術作品ではなく「投資対象」でもあります。



そのため、環境問題を生み出す経済システムを築いてきた彼らが所有する「高価な投資対象」が狙われているとも考えることができます。


「アートを傷つけるな!」という反応を引き出し、「じゃあ、気候変動によって人命が失われるのはオッケーなんかい?」という議論につなげるのが目的だそうです。



さらに、先日ブログにも書きましたが、環境活動家のナオミ・クラインさんは著書の中で、

「石油会社は株主たちの期待に応えるために、今後採掘予定の石油の権利をすでに確保していて、その量は2050年までに排出できるCO₂の上限の約5倍に達する


と述べているんですね。




ゴミを出す量を減らそうとか、できるだけ地元のマーケットで野菜を買おうとか、もうそんな規模じゃなくて、根本的に石油会社を阻止しないと私たち人類の未来はアウトなんです!




でもって自分は今、私たちみんなに人類が直面しているこの危機を気づかせようと体を張って活動している人たちを阻止するための業務についている…

業務の途中で、僕は周りの同僚に思い切って「ここだけの話だけど、僕はナショナル・ポートレイトギャラリーでスープを絵にぶっかけた Just Stop Oil の人たちの活動に共感する。」と自分の気持ちを告げました。

当然のことながら、同僚たちには「えっ、コイツ大丈夫か?」「美術品を破壊するグループの肩持つんか?」という目で僕を見られました。



理由は分かりませんが、ラッキーな事にそれ以来「持ち物検査」 のポジションは、僕には回ってこなくなりました。

環境破壊の抗議をしている人たちが牢屋にぶち込まれている?

image by StockSnap

というわけで、”Just Stop Oil” について調べていたところ、ある人物にぶち当たりました。

それが下の写真のロジャー・ハラムという環境活動家。

image taken from Wikipedia

ロジャーさんは、”Just Stop Oil” と、あともう一つよく知られている “Extinction Rebellion” という組織を立ち上げたうちの一人だそうです。

現在は、環境問題を訴えるために高速道路を封鎖する抗議活動を組織したとして、公共の迷惑を引き起こした罪で有罪判決を受け、5年の禁錮刑を言い渡されているようです。




最近のニュースでは、78歳の Just Stop Oil のメンバーで元教師のガイ・デラップさんが環境抗議活動への関与で20ヶ月の刑を受けた後、昨年11月に自宅謹慎に移行。

ところが、健康上の理由で通常の足首用トラッキングタグが使えず、代わりの手首用のものもサイズが合わないことが判明すると「監視できない」という理由で再び収監されてしまいました。



環境問題を訴えただけで、高齢女性がこんな風に扱われてしまうという事実には、強い違和感を覚えずにはいられません。


さらに、現時点では、労働党がヒースロー空港の第3滑走路の建設計画をサポートしているという話まで持ち上がってきているため、一体地球は、子供達の将来はどうなっていくんだ?って悩まされます。


どこの国も同じかもしれませんが…



それでは今回はこの辺で。



Peace。

コンカズ


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