どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。
気候変動の話題になると、必ずと言っていいほど登場する「化石燃料」というキーワード。そして、化石燃料に関連した記事の中で時々見かけるのが “Petrostate” という言葉です。
今回はこの Petrostate という言葉の定義と、それに該当する国々について見ていきたいと思います。
Petrostateとは?
“Petrostate” という用語が使われるようになったのは20世紀後半で、これは “Petroleum” (石油) と “State” (国家)を組み合わせた造語。
1970年代のオイルショック以降、石油資源が国家の権力や経済にどれほど影響を与えるかが注目されるようになり、こうした用語が広まったと言われています。
では、Petrostate の定義ですが・・・
経済が石油や天然ガスの輸出に大きく依存している国
となります。
日本語では「石油国家」と訳されることもありますが、正確には「石油依存国家」がより適切です。
依存度が高い国ほど、財政や政治が資源価格の変動に左右されやすくなるのが特徴です。
石油依存国家トップ10
ここでは、石油資源が国家の経済や政治に大きな影響を与えている “Petrostate” の中でも、特に注目すべき 上位10カ国 を取り上げます。
それぞれの国がどの程度石油に依存しているのか、また気候対策が進んでいるのかなど、その背景にも触れていきます。
1位 サウジアラビア
言わずと知れた世界最大級の石油輸出国で、化石燃料による温室効果ガスの排出量もハンパじゃありません。
国家収入の大半を石油が占めているため、原油価格の変動が財政に直接影響してしまいます。
こうした背景から、近年では経済の多様化を目指し、観光、エンタメ、金融など石油以外の産業を発展させ、GDPにおける非石油部門の割合を増やすことを目標にしています(Vision 2030 )。
再生可能エネルギーへの関心は高まりつつありますが、依然として石油依存は根強いようです。
2位 ロシア
石油とガスが国家収入のほとんどを占める典型的な Petrostate。
これらの価格が上昇すれば経済は潤う一方、下落すれば財政が厳しくなります。
2020年のコロナ禍による原油価格の急落や、2022年以降のウクライナ侵攻に伴う制裁で輸出先を失ったことは、ロシア経済に大きな打撃を与えました。
温室効果ガス排出量は、世界第4位となっており、その大部分は石油・ガス関連産業によるもの。
ニュースではあまり報道されていないようですが、シベリアでは大規模な森林火災が頻発していて、大量のCO₂排出を引き起こしています。
気候対策に対する態度は、ネガティブです。
3位 イラン
イランは国家収入の大部分を石油と天然ガスの輸出に依存する典型的な Petrostate ですが、アメリカから核開発計画の疑いをかけられて以来、数十年にわたり国際的な制裁を受け、輸出能力が大きく制限されています。
その結果、国内の経済や政治情勢は常に不安定で、気候対策に取り組む余裕はほとんどないというのが現状です。
4位 イラク
国家収入の90%以上を石油輸出に依存し、経済の中心が完全に石油と天然ガスに支えられています。
過去に、イラクのフセイン政権は、イランを敵視していたアメリカと手を組んでいましたが、1990年のクウェート侵攻によってアメリカとの関係が悪化し、最終的に2003年のイラク侵攻へとつながることになりました。
アメリカ(とイギリス)は、「フセイン政権は大量破壊兵器を保有している」「アルカイダとつながっている」と主張しましたが、これらの証拠は見つからず、「イラク国民を独裁政権から解放する」という大義名分のもと、イラクは戦争によってボロボロにされてしまいました。
さらに、戦後復興計画を十分に整えなかったため、政府の統治能力が崩壊し、”IS” などの武装勢力が台頭。その後も短期的な権力争いが続き、気候変動対策に取り組む余裕なんて、これっぽっちもない状態が続いています。
5位 ベネズエラ
国家収入の 90%以上を石油に依存。
かつては南米で最も裕福な国の一つでしたが、2014年の原油価格暴落以降、ハイパーインフレーションが発生し、経済は崩壊状態に。
さらに、石油産業の管理が行き届いていないので、原油流出や環境汚染が当たり前な状態となってしまっています。(マラカイボ湖では、石油流出による水質汚染や漁業被害は超深刻。)
また、再生可能エネルギーへの投資はほとんど行われておらず、気候変動対策にも関心を示していません。
6位 ナイジェリア
アフリカ最大の産油国であり、国家収入の90%以上を石油輸出に依存。
他のPetrostateと同様、2014年の原油価格暴落や2020年のコロナ禍では、財政に大きな打撃を受けました。
また、石油利権をめぐる汚職や横領が横行していて、収益の大部分は政府やエリート層に集中。一方で、国民の多くは依然として貧困から抜け出せない状況が続いています。
さらに、天然ガスを適切に処理せず、そのまま燃やす「ガスフレアリング」が広く行われているため、大量のCO₂や有害物質が大気中に放出されています。
加えて、気候変動の影響で洪水が頻発し、国民の健康や生計が脅かされているにもかかわらず、政府は石油収益に依存し続けているため、気候対策にはほとんど手が回っていません。
7位 カタール
カタールは石油だけでなく、天然ガス(特に液化天然ガス:Liquefied Natural Gas〈LNG〉)の世界最大級の輸出国であり、天然ガス産業がGDPの約60%、国家収入の約70%を占めています。
他の石油依存国家と比べると財政基盤が安定していて、豊富な天然ガス収益を活用して海外投資やインフラ整備を進め、比較的柔軟な経済を構築しています。
一方で、カタール市民には富が分配されるものの、出稼ぎ労働者の労働環境の過酷さがたびたび問題視されています。
気候対策としては、再生可能エネルギーの導入がようやく進み始めた段階であり、政府は2030年までに全エネルギーの20%を再生可能エネルギーにすることを目標に掲げています。
8位 クウェート
国家収入の約90%を石油輸出に依存。
他の湾岸諸国(サウジアラビアやUAE) と異なり、経済改革が進んでいないため、石油収益を活用した新産業の育成が遅れています。
政府が石油収益の使い道をめぐって議会と対立し、予算が通らないこともしばしばあるため、経済多様化や再生可能エネルギーへの投資が遅れているのが現状です。
9位 アラブ首長国連邦(UAE)
アラブ首長国連邦(UAE)は、石油・天然ガスの輸出に大きく依存しており、特にアブダビ首長国がその中心で、UAEの石油収益の大半を生み出しています。
しかし、他の典型的な Petrostate とは異なり、UAEは早くから経済の多様化を推進し、石油収益を観光、金融、貿易などの成長分野へ積極的に再投資することで、経済の多角化に成功しました。
近年、UAE政府は再生可能エネルギーへの転換を積極的に進めており、2050年までにネット・ゼロ・エミッションを達成するため、今後数年間でクリーン・エネルギーと再生可能エネルギーに1630億米ドル以上を投資し、2030年までに再生可能エネルギーの生産能力を3倍にすることを公約しています。
とは言え、COP29での動向を踏まえると、UAEの再生可能エネルギーへの取り組みの実効性については、どこまで信じていいのか分かりません。
10位 アルジェリア
アフリカ最大の天然ガス輸出国で、石油と天然ガスが国家収入の約90%を占めています。
アルジェリアは国土の大半が砂漠気候で、干ばつや水不足、森林火災など、気候変動の影響を直接受けやすい国の一つです。(2021年と2022年には、記録的な熱波と干ばつの影響で大規模な森林火災が発生。)
アルジェリア政府は2020年に「2030年までに再生可能エネルギーを全体の27%にする」という目標を掲げていますが、政治体制や経済構造の変革なしには、化石燃料からの脱却は容易ではないと指摘されています。
「石油依存国家」と「石油産出量の多い国」ではトップ10が異なる?
「石油依存国家」と「石油産出量の多い国」のトップ10では、ランキングされる国が異なります。
石油産出量が多くても、経済の多様化が進んでいて、石油収入への依存度が低い国も存在します。
一方で、産出量はそれほど多くなくても、経済構造上、石油収入に大きく依存している国もあります。
ちなみに、石油産出量の多い国のトップ10(2023年10月の時点での情報)はこちら👇
1位 アメリカ合衆国:日量 約2,030万バレル
2位 サウジアラビア:日量 約1,244万バレル
3位 ロシア:日量 約1,013万バレル
4位 カナダ:日量 約583万バレル
5位 イラク:日量 約461万バレル
6位 中国:日量 約445万バレル
7位 アラブ首長国連邦(UAE):日量 約423万バレル
8位 イラン:日量 約367万バレル
9位 ブラジル:日量 約317万バレル
10 位 クウェート:日量 約301万バレル
*1バレル=約159リットル
見ての通り、アメリカやカナダなどの先進国もランクインしてきます。
これらの事実に加え、ノアム・チョムスキーさんの著書 ‘Who Rules the World’ におけるアメリカによる中東支配の視点を考慮すると、さまざまなことを考えさせられます。
残念ながら、石油に依存する国家構造のもとで、これらの国々が気候変動に適応するだけの余裕を持てるのかは疑問が残ります。
というわけで、今回は “Petrostate” に関しての記事でした。
それではまた。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 What is a “Petrostate”? Exploring the World’s Top Oil-Dependent Nations