どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。
今回紹介する洋書は、イスラエル人の歴史家で哲学者でもある、”ユヴァル・ノア・ハラリ“さんによる著書 「サピエンス」。
実は以前に、オーディオブックで既に2度も聴いていたのですが、内容がいろんな分野にわたって展開するため、しっかりと理解できなかったボキャブラリーも数多くありました。そこで今回は、内容をより深く理解するためにフィジカルな本を手に入れて読んでみました。
「ホモ・サピエンス」という言葉を聞くと、私たちはついつい原始時代を連想してしまいがちですが、そのイメージはブチ壊さないといけません。
そんな大昔の限られた時代の内容は、前半の一部にすぎず、重要なのはむしろ、その後に展開し、私たちが生きる現代にまで続く内容です。
いつ何が起こったかという、出来事が順番に並べてある退屈な歴史の教科書とは違い、人類の発展に関わる歴史上の出来事を、政治経済、哲学思想、科学などからの視点を交えて、私たち「ホモ・サピエンス」はどうやってここに辿り着いたのか? これから先には何が待っているのか?ということがわかりやすく説明された “とてつもない本” です。
読み終えた後、正直あなたの世界を見る目が変わります。
この本一冊を読むだけで、人間としての現在の自分の位置を確認することができるので、本の要約サイトなんかで表面だけを掴むのではなく、ちゃんと紙の本を手にとって自分の頭で理解することをオススメします。
ユヴァルさん曰く、人類の発展は、約7万年前に起こった「認知革命」、1万2千年ほど前に起こった「農業革命」、そしておよそ500年前に起こった「科学革命」の3つの過程を経ているということで、その順番で見ていきます。
Cognitive Revolution (認知革命)
まず有機体は、7つの階層 (英語でtaxonomy) に分類されますが、その端っこの3つだけをとりあげると、ウチら人間は下のようになります。
Family 科 Hominidae 人科
Genus 属 Homo 人属
Species 種 Sapiens 人種
Family (科)のメンバーには great apes (大型類人猿)がいて、チンパンジーやゴリラ、オラウータンなどもそこから来ています。
600万年前のお母ちゃんが産んだ2人の娘のうちの1人がチンパンジーの祖先で、もう片方がウチらのおばあちゃんだったらしいです。
しかしながら、ここ1万年ほど「人属」には私たち「人種」しか存在していないため、「人属はウチらだけや」と思いがちです。
しかし、「人間 /human」の本来の意味は「人属 /Homo に含まれる動物」という意味であり、サピエンス以外にも他の種類がいたことが理解できます。
人間は250万年ほど前に、東アフリカで初期の類人猿系の人属(Homo)であるアウストラロピテクスから進化して、その後ヨーロッパやアジアに移住し、Homo neanderthalensis (ネアンデルタール人)やHomo erectus (ホモ・エレクトゥス)など、環境に応じていろんな種類に進化して、各地に存在していたわけですが…
7万年前あたりから移動を開始したウチらサピエンスが、1万年ほど前までに彼ら全員を殺ッてしまったという可能性がかなり高いようです。
ここで大事なのは、ネアンデルタール人のような、肉体的にはサピエンスよりも優っていた種類がいたにもかかわらず、どうやってそんなことが可能だったのか?ってことになりますが、
それは…
サピエンスにだけ「認知革命 = Cognitive Revolution」が起こった
ってのが、理由のようです。
この「認知革命」によって、サピエンスは他の動物にはできない、見たことも触ったことも匂いを嗅いだこともない、想像による事柄(フィクション)について話すことができるようになり、それを多くのサピエンスが同時に信じることで、大人数の人々が協力できるようになりました。
普通にメンバーを集めてグループを作るにも、チンパンジーだと “50匹”、サピエンスでも”150人” あたりが限界らしく、それ以上集まると内乱が起こってしまうと言われています。
ところがサピエンスは、例えばここに神話や伝説、宗教や株式会社など、想像上のものを創り出すことによって、お互いに今まで会ったことがない者同士が、信じている物事が同じという理由から、団結してすごく大きなグループを作り上げることができるようになってしまったというわけです。
商業ネットワークなんかも「信頼」が元になっていて、「お金」や「銀行」といった「フィクション」なしでは成り立たちませんよね。
というわけで、「認知革命」によって「文化」が生まれ、サピエンスもここから発達していったので、これが「歴史の始まり」とも言われています。
Agricultural Revolution (農業革命)
さて、この本は「農業革命」の章から、メチャメチャ面白くなります。
(…と同時に、学生の頃歴史の授業で習った記憶の断片をかき集めるのにも忙しくなりますが。💦)
🔹忙しさが止まらん!
「農業革命」は人類にとって革命的で、たくさんの知識人を生み出し、自然の秘密を暴き、厳しい狩猟生活に終止符を打って、定住することができて人々は幸せになった…
… なんてのは単なるファンタジーで、実はこの「農業革命」が人類にとっての「不幸の始まり」であったと、著者は語っています。
実際のところは…
食料生産が爆上がりし、それに伴って人口も大幅に増加。するとエリート層が次第に農業者を巧みに操つるようになり、結果として農業者は、狩猟採食放浪者よりも長時間働かざるを得なくなってしまった…
という状況。
人口増加が起こり、消費量アップで更なる生産が必要になると、もっと働いて生産し、もっと人口が増加して… の繰り返し。
さらに、私たちは現在の贅沢を手に入れると、いつの間にかそれが生活必需品となってしまい、次のレベルの贅沢を手に入れるためにもっと働く、というサイクルにハマっていきます。
掃除機、洗濯機、皿洗い機、ケータイ、e-mail など、時間セーブのために発明されたものがタスクを増やして、さらに私達の生活を忙しくして、不安を増やし、イライラしている。
(あぁ〜… もうやめて〜!)
🔹動物の家畜化
農業革命による定住は、動物の家畜化の始まりでもあります。
抵抗したり、群れを離れがちの羊やニワトリ、牛は、まず先に殺され、大人しく肉付きのいい子孫を残すタイプはキープされ、どんどん増やされる。
人間に次いで、牛、豚、羊は世界中で驚異的な繁殖を遂げた哺乳類となりましたが、その繁殖の成功は、動物たちの幸福とはかけ離れたものとなっています。
(通常ニワトリは10年、牛は20年ぐらい生きることができるようですが、家畜として肉にされる彼らの寿命は数週間から数ヶ月。)
消費者としての私達が知らない、豚の飼い慣らしや、乳牛の話がこの本の106〜108ページあたりに書かれていますが、かなりショッキングで痛々しいです。
🔹階級社会と不平等
定住して農耕社会が発展すると、その地域を治める統治者が現れます。そして、規模が帝国レベルに達すると社会も複雑化し、多くの人々を従わせるためには相応の想像力を働かせる必要が出てきます。
「目には目をを、歯には歯を」で有名なハンムラビ法典 (The Code of Hammurabi)で知られるバビロニア王国の王は、その法典の中で人々を、支配層 (superiors)、平民 (commoners)、 奴隷 (slaves) に分けて、それぞれが罪を犯した場合の罰則を綴っています。
アメリカの独立宣言 (The Declaration of Independence of the United States) では、人は平等に造られ… “men are created equal” なんて言ってますが、そこに男女の平等は言及されていないですし、そもそもアメリカの独立宣言は、奴隷所有者によってサインされたので、黒人やアメリカの原住民は、そこに含まれていません。
( 奴隷解放後も黒人の方々は十分な教育や金銭的な基盤を持てず、出世の機会も限られていました。そのため、今でも仕事で高い地位にいる黒人の割合は低く、それを理由に一部の白人は、黒人の能力が自分たちよりも劣っていると主張し、差別する傾向があります。)
自由な人と奴隷、白人と黒人、金持ちと貧乏人というのは、こうやってフィクションの元で存在しているのです。
そして、人々にこれを信じさせるためには、出来上がった社会秩序が想像によるものだというのは不都合なので、そこで「神」が登場するというわけです。
というわけで、人種差別、男女差別も農業革命から生まれました。
🔹3つの “Universal Order”
まず “universal order” とは何ぞや?ってなると思いますが、要するに「世界中の誰にでも通じる可能性があるルールや価値観」ってことですね。
1⃣ 人間が作りだした、全ての人々が受け入れる可能性があるフィクションのうちの1つが、効率を上げるために生み出された「お金」。
社会が複雑化し、物々交換に限界がきたところで、まずは「お金」がいろんなところで使われるようになりました。
お金は、宗教、性別、人種、年齢、または性的指向に基づいて差別することなく、誰でも欲しいものや必要なものと交換できるため、これまでに人間が作り出した中で最も普遍的で、最も効率的な相互信頼のシステムと言えます。
でもって、みんながお金という存在を信じていることで、お互いに知らない者同士でも、効果的に協力することができるってのも、スゴイことですよね。
2⃣ 2つ目のフィクションは、政治的な「帝国」の秩序となります。
「帝国」の定義は、人口の数やサイズによらないので、小さくても「帝国」と呼ぶことができます。
帝国が勢力を拡大していくたびに、占領された部族などのグループは融合されて滅んでいったのですが、それによって文化も融合していきました。
というわけで、
自分の所属していた帝国や部族がある帝国に占領され、伝統や文化が破壊されたとしても、実はその伝統や文化自体も、過去の帝国によって作られたもので、結局のところ「純粋」な文化は存在しない
というのが現実。
「我々の現在の暮らしは、過去の人達が流した血の上に成り立っている」
ということになります。
私たちが生きている21世紀の世界は、約200の国に分かれていますが、どの国も完全に独立しておらず、お互いに依存している状態。
特に核兵器や気候変動などの地球規模の問題は、国境を超えて存在し、どの国も単独ではこれらの問題を解決できません。これに加えて、バイオエンジニアリングや人工知能といった技術が新たな挑戦をもたらし、私たちの体や心、さらには生命そのものを改造する可能性があります。(怖っ。)
歴史上、多くの帝国が普遍的な政治秩序を作り、全人類の利益を目指すと約束しましたが、いずれも失敗しました。未来の帝国がそれを成し遂げられるかは、まだ未知数ってところです。
3⃣ そして、3番目のフィクションは「宗教」。
「宗教」というものは、しばしば差別や対立、不和の源と見なされていますが、実際には「お金」や「帝国」と並んで、人類を統一する3大要因のひとつとしてはたらいてきました。
歴史上有名な宗教、例えばイスラム教や仏教なんかはユニバーサルで布教的ですが、古代の多くの宗教は地域的で排他的でした。信者は地域の神々や精霊を信仰し、他者を改宗させることには関心がありませんでした。
普遍的で布教的な宗教が現れ始めたのは紀元前1千年頃で、これは人類の統一に大きく貢献した重要な歴史的な革命の一つです。(たくさんの血が流れましたが…)
ついでにここで少し宗教関連の英単語に目を通しておきましょう。
🔹monotheism [mɒnəʊθiːɪzəm]
一神教 (= the belief that there is only one god)
🔹polytheism [pɒliθiːɪzəm]
多神教 (= the belief in many different gods)
🔹atheism [eɪθiɪzəm]
無神論 (= the belief that no god or gods exist)
🔹animism [ænɪmɪzəm]
精霊信仰 (= the belief that all natural things, such as plants, animals, rocks, and thunder, have spirits and can influence human events)
🔹missionary [mɪʃənri]
宣教師 (= a person who spreads their religion or belief)
ユダヤ教の一部(esoteric Jewish sect、つまりキリスト教の起源)が発展し、この信仰が世界に布教されるべきだ!となっていった辺りから性質が変わりはじめ、世界を「わたし達」と「あなた達」に区別するようになってしまいました。
一神教を信仰する人たちは基本的に、自分たちが唯一の神の完全なメッセージを持っていると信じているため、しばしば多神教の信者よりも狂信的になり、必然的に他の宗教を否定する傾向があります。
ユヴァルさん曰く、ここ最近になって登場してきた、リベラリズムや共産主義、資本主義、ナショナリズム、ナチズムなどは「イデオロギー」と呼ばれ、「宗教」として扱われることを嫌がりますが、実は「宗教」と何ら変わらないそうです。
もし宗教を「超越的なルールや価値観を信じた上での人間の行動基準」と考えるなら、ソビエト共産主義もイスラム教などと同様に「宗教」と呼ぶことができるというわけです。
でもって、一神教は「神様」の存在以外にも、ちゃっかり「悪魔」の存在を認めてるし、アメリカは自国が特別な使命を持った国だと信じている「国家主義」で、自由な市場で競争しながら繁栄していくことが大事な「資本主義」で、人間としての個人の自由や権利を奪うことはできないと信じる「自由主義人文主義」であるという、いろんな要素が絡み合った雑種状態となっております。
こうなってくると、もうワケがわからないので、ここで本の中で出てくる現代の人文主義宗教 (Humanist religions) 、つまり「ホモ・サピエンス」を神聖視する宗教の3つのカタチを挙げておきます。
⚫Liberal Humanism(自由主義人文主義)
人間の個人の自由や権利を尊重する考え方。個人の自由を最優先し、社会や政治のあり方は個人の自由と幸福を促進すべきだという考え。
⚫Socialist Humanism(社会主義人文主義)
社会の平等と連帯を重視する思想です。資本主義の不平等を批判し、共同体の幸福を追求することで、社会全体が豊かになることを目指す。
⚫Evolutionary Humanism(進化論的人文主義)
人間の進化と発展を重視する考え方。生物学的進化を重視し、人間も含めた生物の進化と科学的進歩が、人間社会や価値観に影響を与えるべきだと考え。政治的に左右の立場はないけど、たくさんお金をもってないと、こんなことできないから、結局右寄りの人達に支持されている。
第二次世界大戦が終わってから60年間、人文主義と進化を結びつけることや、生物学的手法で人類を「アップグレード」することを主張するのはタブーとされてきました。
しかし、現在ではそのようなプロジェクトが再び注目されています。誰も「下等な人種」や「劣った人々」を排除するといった言い方はしませんが、増え続ける人間の生物学知識を活用して「超人」を作り出そうと考える人は少なくありません。
また、「自由主義人文主義の信条」と「生命科学の最新の発見」との間には、大きなギャップが生じてくるので、この問題を無視し続けることはできなくなってきています。
Scientific Revolution (科学革命)
最後の章は、この本の約5分の2を占めている “Scientific Revolution” 。
約500年前から始まったということで、現代に近いぶんだけちょっと親近感?が湧きますかね。
科学革命は、私たちの身の回りの「当たり前を疑う」ところから始まった、とユヴァルさんは言っています。
以前の帝国は、すでに世界のすべてを理解していると考え、富や権力を拡大するために他国を征服していきました。一方で、ヨーロッパの帝国主義は、過去の伝統よりも現在の観察を重視し、新しい発見を求めて航海に出ました。
そこで起こった「科学革命」の始まりとも言える重要な出来事が、アメリカ大陸の発見です。
広大なアメリカを征服したいという願望を満たすには、必然的にその地理、気候、動植物、言語、文化、歴史について大量の情報を集めなければならないため、莫大な費用がかかります。
となってくると、
科学の発展には「帝国の助け」が必要。そして、帝国の発展には「科学の助け」が必要
となり、ここに「お金」の存在が入ってきて、「科学+ 政治+ 経済」という密接な関係が出来上がります。
言い換えれば、この500年間、科学が帝国主義や資本主義と結びつくことで、歴史を動かすエネルギーが生み出されてきた、ということですね。
帝国の発展には、非常に大きな経費が必要とされるわけですが、長年の経済の発展の停滞を打破するために、私たちはここで、また新しい方法を思いついてしまいます。
その方法とは
「未来への信頼」に基づく新しい仕組み、つまり「信用(クレジット)」という考え方です。
クレジットでは、まだ存在しない未来の資源や富を担保に、今の経済活動に使えるお金を作り出します。この仕組みにより、将来の収入を先に使うことで、現在の社会を発展させることができるようになりました。(16章参照)
ユヴァルさんは、現代社会の歴史において理解しておくべき言葉はたった1つしかないとも言っています。
それは “growth” =「成長」。
現代人は、この “growth” に関して完全にOCD状態です。💦
そして、18世紀後半に入ると、アダム・スミスが「国富論」を発表。
ここでは、市場経済や自由競争の重要性が説かれているわけですが、ユヴァルさん曰く、実際にアダム・スミスが言っているのは、
「欲というのは良いもので、自分が豊かになることで、自分だけでなく皆の利益にもなる。」
つまり「利己主義」が「利他主義」なのだ、と言っているのですが…
実際には、儲けが増えるほど雇い主の欲も増大するため、売り上げ伸びても労働者の給料を上げず、自分の取り分を増やそうとする傾向があります。そのため、理想通りにはいかないのが現実です。
そして極めつけが、同時期にイギリスで起こった「産業革命」。
この「産業革命」と「資本主義」のカタチが出来上がったことによって、「科学」と「産業」と「軍事テクノロジー」がスクラムを組むようになり、ここから世界が超高速で変化しはじめます。
人口は14倍に膨れ上がり、生産量は240倍、エネルギー消費量は115倍、と爆上がりして、”growth” にこだわり続けた結果、人類の歴史上初めて、供給が需要を上回るようになってしまいました。
「だったらみんなで頑張って消費しようぜ。」ってことになり、それを続けたところ、地球温暖化、海面上昇、そして広範な汚染が、私たち自身の首を絞める結果となり、サピエンス黄金期からサピエンス終了へと近づいてきているように思われます。
ユヴァルさんは、私たちホモ・サピエンスがどのようにここまで辿り着いたのか、そしてこのまま生態系のバランスを崩し、弱者を搾取し続け、自分たちが地球の支配者だと勘違いしたまま突き進んでしまっていいのか、もう一度考え直してほしいという思いを込めて、この本を書いたのだと思います。
誰もが興味を持って読めるように、とてもわかりやすく書かれています。
というわけで、メチャメチャ簡単にまとめてしまいましたが、まだ読んでいない方は、ぜひ手に取ってじっくりと読んでいただきたいです。
必読書です。👇
それではまた。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 A Simple Summary of Yuval Noah Harari’s ‘Sapiens’: Key Insights from the Book