どうも、コンカズ (@konkazuk) と申します。
この度、毎年恒例のロンドンクラフトウイークに
「日本から参加する人がいるので、その方の通訳をしないか?」
という話が、カミさんの友達からまわってきたので、未体験ゾーンでしたが、やってみることにしました。
今回の記事は、僕の通訳初体験レポートとなります。
というわけで、興味のある方は覗いてみてください。
イメージトレーニング?
通訳の件に、了解を出したのが本番の1ヶ月半前。
僕は過去に、長い間ロンドンを中心にバンド活動をやっていて、自分にとって人前で何かをやるっていうのは常に
「シャイな自分を外に出してやる時のドキドキ感」
なので、再びこれを楽しむことができると思い、ワクワクしていたのだが …何かが違う。
よく考えたら… アレッ。
「俺しゃべらなあかんやん!」
ってことに気付く。(← アホ)
そして数日後、カミさんの友達から通訳する相手の情報が送られてきた。
丹羽ふとん店 五代目 丹羽拓也 「現代の名工」を受賞後、布団職人を振り返る…
「…やべっ、ひょっとして布団業界の巨匠?」
とりあえずは、布団に関する英語表現をざっとチェックしてみる。…が、別にこれと言って知らない単語があるわけでもない。…大丈夫そうだ。
次に、勝手に会場の大きさを想像する。ガッと折り畳み椅子が広げられて列になっていて、ステージがあってそこでマイクを持たされている。
「あわわ… 声震えるかもしれへん。」
家族をもって以来、友達と会う機会は激減し、職場でも愚痴が多い同僚との会話は極力避けているため、最近は会話をする相手も時間も限られてきている。
というわけで、ここんところベクトルがあまり外側に向いていない。
とりあえずは、職場(ギャラリー)のprivate view で、orator の女性が企業の人間を相手に、展覧会の作品やアーティストの説明をたまにやっているので、そこに出現して彼女のスキルを色々とパチろうと決める。
自然すぎて今まで気づかなかったけど、オーディエンスが突然投げかけてくる厄介な質問にも、声量が変わることなくサラッと対処したり、突然話題を切り替える技など、orator のスピーチの中にはスキルの発見だらけであった。
そんなこんなしている間に、私生活の方もカミさんの展覧会の準備や、大家さんからの「フラット売却通告」などが入ってきて色々と忙しくなり、知らぬ間に当日から5日前となっていた。
丹羽拓也、現る!
Twitterではいろんな人とのやりとりがあるけど、面と向かって日本人と新たに知り合うってことは、ここしばらくなかったので、何か照れ臭い。
何度かのEメールのやりとりの後、当日から3日前、仕事の帰りに丹羽さんと初顔合わせとなった。
待ち合わせ場所は、丹羽さんがちょうど「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の劇場版をストランドあたりで見ているというので、そこで落ち合うことに。
布団職人の巨匠で… 酒は飲まない…
チャリを漕ぎながら、またまた勝手に想像を膨らます。
和服に身を包んでセッタを履き、振る舞いは上品であるが、異常に声がデカイ。
こんなイメージを持って警戒しながら劇場前にたどり着くと、意外にもカジュアルに身を包んだ、僕と同じようなオッさんが1人立っていた。
目的の人物と出会えたので、さっさと場所を決めて話を始めたいのだが、前日がチャールズ王の戴冠式であったため、ロンドン中心部は地方からの観光客でごった返していて、どのパブもテーブルは予約でいっぱい。
散々いろんなところを連れ回した後、そろそろブチギレてるやろなと恐縮しながら、最終的にウォータールーブリッジ付近のパブに落ち着く。
僕はパイント、丹羽さんはノンアルコールのPeroniのボトル。
いざ会話がはじまると、イメージしていた人物像とは少し異なっていた。
お互いのことを話していくうちに、丹羽さんがすごく気さくで、さらにはスポーツマンであることが判明。しかも、道場で大勢の生徒に空手も教えているという、すごいパワーの持ち主。
当日のイベントの打ち合わせと思いきや、この日は世間話で終わってしまった。
…そして、当日。
開催地は、イーストロンドンの Shoredich エリアに構える “Nobu Hotel”.
近くにチャリをロックし、建物に入って4階に上がると、丹羽さんが迎えてくれた。
荷物を置くと、デモンストレーションをやる部屋に導かれ、ホッと一安心。狭いライブハウスのサイズとほとんど変わらない。
他の関係者や展示者も何人かいたけど、丹羽さんとはすでに一度会っているので、心にある程度の安心感があるのが自分でわかる。
裏を返せば、あれがなかったら当日の安心感はなかったわけだから、人に会う回数って大事だなと実感、と同時に丹羽さんの配慮に感謝。
とりあえずは、11時から1本、16時にもう1本行われると言うことが伝えられ、軽くオーディエンスに伝えたいことを聞いたところで、本番まで残り15分。
部屋から抜け出し、とりあえず簡単なイントロを頭の中で考え、廊下を行ったり来たりしながら、それを3回ほど繰り返す。
お客さんがちらほら見えはじめたので、部屋に向かうと、丹羽さんがすでにスタンバっていて、最後のお客さんの入りを確認したところで、GOサイン。
キックオフである。
ラウンド 01
はじめに、先ほど廊下で考えた簡単な座布団に関する事と、丹羽さんがどんな職人なのかってのをササっと説明し、その後、丹羽さんの座布団作りの実践に。
ここでは丹羽さんが日本語で説明したものを、そのまま英語にしてオーディエンスに伝えていく。
制作過程で、実際にの座布団の角に入れるために形を整えた後のコットンの感触をかんじてもらったり、シルクのかたまりを手にしてもらったりなど、お客さんとの interactive な部分も交えていくうちに、余分な緊張がとれていく。
自分自身も、職人が目の前で座布団を作っているのを見るのは初めてなので、仕事を忘れて見入ってしまいそうになる自分との戦いでもある。w
デモンストレーションが終わると、オーディエンスからの丹羽さんへの質問があり、お互いの国の言葉に訳しながらやりとり。
そして最後に、興味を持ったオーディエンスが丹羽さんに持ちかける商談のやりとりを通訳して、第一ラウンドは終了。
初めての割には、悪くなかったのでは、と正直思った。
丹羽さんも褒めてくれて、お世辞とは分かっていてもやっぱり嬉しい。
おっしゃ昼飯〜、と思いきや、
ここで思いがけないハプニングが…
続いてデモンストレーションする参加者が、何かの手違いで? 通訳がいない状態ということで、僕にやってくれと言う。
う〜む…
断るのは簡単たが、これは同時に、自分を未知数の領域に放り込んだらどうなるか?ってのを実験することができるチャンスでもある。
でもって、元々なかった話なのだから、たとえヘマしても、別に失うものは何もない。
やることに決めた。
大急ぎで関係者がラップトップに入った全体の流れを見せてくれたが、5分でこの量を飲み込むのはさすがに無理。w
目を通したところで何も入ってこないのはわかっているので、読むふりをしながら頭の中では作戦を練る。
そしてオーディエンスが入ったところでキックオフ。
今回の職人は、土と砂と藁を混ぜてそれを壁に塗りつける、いわゆる「左官」なのだが、このジャンルに対する僕の知識はかなり弱い。w
しかもまだ若いので、自分の事をわかってくれ感(気持ちは分かるが)があからさまで、材料の調合の割合をはじめとするテクニカルな部分を含め、恐ろしく細かいところまで全て説明してくる。
丹羽さんのが通訳が終わったばかりで、このボリュームを同時通訳は、正直かなりキツイ。
直訳していくとドツボにハマると直感したので、一旦内容を飲み込んだ後、頭の中で内容を分解し、最速で英語で自分の言葉に組み立てていく。
「これが日本職人のスキルのすごいところである。」
「経験がものをいうのです。」
という様なセリフをいちいち挟んでくるのには、さすがに参ったが、この言い方をお客さんが引かないように微妙にニュアンスを変えながら表現するのも試練、と受け止めながら進める。
朝飯を食べないので、途中でバッテリーと集中力が落ちてきているのが自分にも分かったが、とりあえずなんとかやり切った。(おそらく後半は、怪しい訳もあったと思うし、笑顔は半分消えていたかも…)
やっと昼飯…
と思いきや、ここでさらに遅れてきた日本人のオーディエンスが入ってきて、興味があるから今やった内容を要約して説明してくれと、この若者をつかまえる。
他のオーディエンスは彼と話がしたいのに、若者はこの遅れてきた日本人と話を始めてしまったため、彼らは僕に話しかけてくる。
アアァ… そろそろ幕が上から降りてきて、プチっとキレそう。w
さすがにこれはアカンと思ったので、ある程度話をした後、さっさと切り上げて丹羽さんを発見して昼飯へと消える。
ラーメンを奢っていただきました。
ラウンド 02
これが最終日で、しかも最後のセッションということで、集まったオーディエンスの数も少なめ。
これを見た丹羽さんは、前回と少し変えて、デモンストレーションと同時に質問も受け付けるスタイルに変更。
少人数での intimate なヴァイブはやり易くて助かるが、今度は新たな試練が…
オーディエンスの中に、英語の堪能な日本人女性が混じっていて、その方が日本語で丹羽さんに質問した後、その内容と返ってきた答えを自分で英語にトランスレートして、隣の人に話しているのである。
これは楽ちんだ、と言いたいところだが、彼女の向こうに座っている方にまでは、彼女の声は届かない。
これでは向こうの人は取り残されてしまうので、僕はこの日本人女性の頭越しに通訳しなくてはならない。
さらに彼女はトランスレートする時としない時があるので、これまたややこしい。
先程の左官の若者とのやりとりでの、怒涛のトランスレーションで脳みそがかなり疲れているのと、この複雑なシチュエーションを前にして、思考停止というか、思考する意欲が奪われていった。
集中力が失われると、丹羽さんの華麗な職人ぶりを見入ってしまい、仕事を忘れてしまう。
アカン、アカン。
というわけで、第二ラウンドは、スタミナ切れとなり、かなりラフな仕事ぶりとなってしまった。
感想と反省点
とまぁ、後半は少しだらけてしまったが、通訳自体に関しては、ポーズすることもなくサクサクいけたので、はじめてにしては上出来だったと思う。
ただやはり余裕がまだ足りないので、リアクションのいいオーディエンスばかりに、どうしてもアテンションが向いてしまい、全体に話しかけていない時が結構あったかなと思う。
一番ひどい失敗は、「丹羽さん」を第一ラウンドの終わりぐらいまで「たんば」さん、と思い込んでいて(実は「にわ」と読む)そのまま「たんばさん」と紹介していたこと。
う〜ん。漢字は苦手だ。w
最後に
最後に少し「丹羽拓也」さんについて。
日本でトップを走る「丹羽布団」は、丹羽拓也さんと、その親父さんの2人だけの手によって、全てが手作りで制作されており、さらには圧倒的な人気のため、現在注文してからモノが届けられるまでが6年待ちとのこと。
そんな状態で、海外にまで進出してビジネスに手が回るのか?と質問したところ、
「グローバル化以降、日本の文化が、海外でいろいろと取り上げられるようになってきたので、僕が外に出ていくことが取り上げられたら、たくさんの日本にいる職人たちが勇気付けられて、日本から飛び出せるのではないか。」というのが目的で、海外にデモンストレーションに来ているとのことである。
デモンストレーション中の丹羽さんは、話している時は笑顔でいっぱいだが、いざ作業となると、一瞬で職人の顔に変わる。
そこがすごく印象的でした。
丹羽拓也さんについては、下のリンクから👇
London Craft Week Crafting Japan
丹羽拓也 「現代の名工」(卓越技能者表彰) 受賞
それでは、今回はこんな感じということで。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 My first job as a interpreter was for Takuya Miwa the “futon-making master”!