どうも。コンカズ (@konkazuk) と申します。
今回紹介する書籍は、オランダ人の歴史家で、ジャーナリストでもある “ルトガー・ブレグマン” による著書 “UTOPIA FOR REALISTS” 、
日本語に訳したら「現実主義者にとっての理想郷」ってなタイトルです。
(残念ながら日本語訳は、現時点では発売されておりません。)
内容はというと…
21世紀現在に至るまでの貧富の差とその要因や背景、さらには、実際に社会に貢献している人たちが、ちゃんとそれに値するものが得られる社会にするためにはどうしたら良いか?という問題に対するアイデアなどが書かれた本です。
飛び交う情報が多い分、大切なことが見えにくくなってしまっている現代社会を生きていく、すべての人が読むべき本だと思いました。
というわけで、興味のある方は覗いてみてください。
私たち人類はすでに「理想郷」に到達してしまっている
まずはじめに、
産業革命を境に、我々人類の生活レベルは急激に改善され、私たちの祖先が夢見ていた “Utopia (理想郷)” に、21世紀を生きる私たちはすでに到達してしまっている。
少し前には、ほんのひと握りの権力者たちにしか味わうことができなかった「贅沢」が、現代人にとっては「普通」になってしまった。
という内容からこの本はキックオフされます。
「ユートピア」が達成された今、私たち現代人には追っかける夢がなくなってしまった…
つまり、
Utopia = Dystopia [dɪstəʊpiə]
だった、ということがわかってしまったのです。
「ディストピア」は「ユートピア」の対義語で、反理想郷、つまり「暗黒の世界」ということになります。
したがって、今の私たちの立ち位置は「昔の人たちの生活は、こんなにも悲惨だった。」と語る以外、できることがない状態となってしまっています。
イギリスの哲学者 “バートランド・ラッセル” (1872-1970) は、次のように言っています。
Man needs, for his happiness, not only the enjoyment of this or that, but hope and enterprise and change.
「人が幸せであるためには、あれやこれやを楽しむ以外にも、希望、企画などに取り組む意欲や行動、そして変化が必要とされる。」
さらには…
It’s not a finished Utopia that we ought to desire, but a world where imagination and hope are alive and active.
「私たちが欲すべきは、完成されたユートピアではなく、想像力や希望が広がっている世界だ。」
つまり私たちが本当に幸せを感じるのは、ユートピアに向かっている状態ということになります。
著者は、今の私たちに必要なのは「新たなユートピア発見の地図」であり、その新たなユートピアは、「世界から不平等をなくすこと」、それに向かってみんなで動いていこうぜ!と言っています。
貧困をなくすには?
結論から言えば、貧困をなくすには “Free money” を貧困者に配給するのが最も効果的とのこと。
“Free money” ???「なぬっ?」と思った人もいるのではないのでしょうか…
実際のところ、貧困層にお金を配る実験は過去にいくつかの国で試みられていて、無条件のお金が貧民に渡されると、彼らは余計なものにそれを費やすことはせず、生活に必要なものに費やす、ビジネスを始める、などの結果が至る所で見られたそうです。
逆に、彼らが起こすドラッグやアルコールがらみの問題などに費やされる年間のコストの方が、フリーのお金を配給するよりも数倍高くつく、という結果がどの実験からも出ています。
先進国に住み、貧困ボーダーラインよりも上の生活をしている人は、「働いていない奴らに、どうしてお金を配るんだ!」「貧困者にお金を与えても、怠けるだけだ。」という意見が頭に浮かんでしまうので、すでに実験によって明らかになっている、この “Win-Win” のアイデアが通るのは難しい状態となっているようです。
ユニバーサル・ベーシック・インカム
戦争が頻繁に起こっていた少し前の時代には、GDP (Gross Domestic Product / 国内総生産) が、国の成長を測る「ものさし」として使われていました。
しかしながら、戦争がほぼ無くなってしまった今の世の中(残念ながら、今の時点では、ウクライナやイスラエルで戦争が起こってしまっていますが…) で、人類の繁栄をドルやポンドやユーロで測るのは時代遅れとなってきています。
したがって私たちは、今の時代の自分らにとって、何が「成長」か? 何が「進展」か?という昔からの問いを、もう一度考えてみる必要があるということです。
現代社会では、お金を回す側の仕事が増え、物質的な価値を生み出していない方が、儲かるシステムが出来上がってしまっている。
そして、裕福になって賢くなるほど、私たちはさらに消費するようになる。
「効率」と「生産性」に取りつかれてしまっている競争社会では、残念ながら「教育」や「医療」など、社会貢献に役立つ分野の真の価値が見えにくくなってしまっています。
時代とともに生活レベルの豊かさはアップしてきているのに、社会に貢献する仕事を持つ低所得者の労働時間は増えるばかり。
僕の子供たちが通う学校でも、教師たちによる給料アップを要求するストライキがよくありますが、とても理解できます。教師がいくらやりがいのある仕事だとしでも、仕事量に見合う見返りがなく、苦しい生活を送らなければならないのであれば、結局やる気消失につながり、教師たちの質を下げる結果となってしまいます。
そして調査の結果、たくさんの人が願っているのは、さらなる収入なんかよりも、少ない労働時間ということが分かっています。
社会貢献しながら頑張っている人たちは永遠と時間に縛られ、お金をただ回している人達だけがどんどん裕福になり、さらなる消費を繰り返すシステムを放っておいては、不平等のギャップは広がっていくばかりです。
作者は、社会は全ての人によって成り立っているのだから、一人勝ちすることばかり考えることはやめて、国が「ユニバーサル・ベーシック・インカム」の制度を採用し、みんながある程度の生活レベルを楽しめるようにもっていくべきだ、と語っています。
機械との競争
「このまま機械化が進めば、社会は無職になる人間で溢れ、不平等が拡大する。」
Amazon のようなオンラインセラーが現れ、みんながそれを利用するようになると、個人店はどんどんつぶれていってしまいます。
19世紀のイギリスの経済学者、アルフレッド・マーシャルは、
The smaller the world gets, the fewer the number of winners.
「世界が小さくなるほど、勝者になれる者も少なくなる。」
と述べていて、経済学者たちは、この現象を
“Winner-take-all society”
「勝者が全て持っていってしまう社会」
呼んでいるそうです。
しばらく前に、ウチの息子の同級生の誕生日に、Amazonのギフトカードを渡したところ、そこのお母さんに「ウチはAmazonは使わない主義なので。」ってことで断られ、現金と交換した記憶があります。「徹底しててすごいな。」と感心しました。
かつては、機械化が進むことによってたくさんの仕事が奪われても、同時に新たな仕事も生み出されてきたので、うまくバランスが保たれてきました。
ところが、21世紀に入ると、このバランスは崩れはじめ、急激にギャップが広がりつつあります。
これによって、めちゃめちゃスキルが必要な仕事と、まったくスキルが要らない仕事がのこる一方で、平均的なスキルの仕事は、徐々に衰退してきているそうです。
ロボットは病気になりませんし、休暇も取らないし、文句も言わないですが、機械化が進むことが、たくさんの人たちを酷い収入でどん底の仕事に追いやるのであれば、これは問題を呼び起こしているようなもの。
そこで著者は、
私たちは、勝者だけではなく、敗者を含むすべての人たちに、この第2機械時代の恩恵が行き届くような社会システムを作り上げることを、しっかりと考えなくてはならない。
と主張し、これを実現するたった1つの方法は、
Redistribution of money 「富の再分配」
つまりは、
「ユニバーサル・ベーシック・インカム」
の制度を導入することだ!と訴えかけています。
国境を取りはらえ!
著者の、不平等 (inequality) を取り払う願いは、先進国内にとどまりません。
ユートピアが達成された国家に住み、やれユニバーサル・ベーシック・インカムの導入、やれ週15時間労働の実現なんて言っている一方で、世界には、未だに1日1ドルでの生活を余儀なくされている人たちがたくさん存在しています。
現在わたしたちが体験している豊かな暮らしを、世界中のすべての人々が体験できるような状態に持っていくことを最大目標として、活動すべきではないのか?
と訴えかけます。
今の私たちの世界がどのようになっているかというと、
⚫地球上の人口の8%を占める超裕福層が、世界中の約半分の収入を稼いでいる。
⚫そのうちの1%が,世界の半分以上の富を所有している。
⚫世界で一番乏しい、億を占める人口が消費するのは、全世界の資源のたった1%。
⚫世界で一番裕福な、億を占める人口が消費するのは、世界中の資源の72%。
国際的な視点から見てみると、先進国の裕福層は、単なる金持ちというよりも、不快なほど金持ちだというのが理解できます。
ここで著者は、19世紀の不平等は階級によるものだったが、現在の不平等は地理的な部分が大きいことを指摘するとともに、
国境を解放することが、貧困に対する世界的な戦いの突破口である!
という、大胆なアイデアを投げかけます。
ところが先進国に住む人たちは、以下のような偏見を移民に対して抱いているのが現実。
1. 移民はみんなテロリストだ!
2. 移民は全員犯罪者だ!
3. 移民は社会的結束を乱す!
4. 移民は私たちから仕事を奪う!
5. 安価な移民労働は、私たちの賃金を押し下げる可能性がある!
6. 移民は怠け者で働かない!
7. 移民は決して自国に帰らない!
著者は、これらの偏見が、すべてデタラメであることを本の中で証明するとともに、結局すべては貧富の差による問題から始まっていることを読者に理解させてくれます。
アメリカやイギリスが、今まで中東諸国で繰り広げてきた恨みを買うような出来事を考慮すると、自分たちの国の「国境を取り払う」なんて夢のまた夢のようですが、本当に物事を達成したいなら「非現実的」、「非合理的」、そして「不可能」なアイデアを持ち続けろ!と熱く語っています。
…というわけで、今自分が生きているこの時代、子供達の将来、そして世界に存在する不平等をすごく大きなスケールで、そして客観的に見つめ直させてくれる素晴らしい内容の本でした。
興味のある方は、下のリンクからどうぞ。👇
以上、 “ルトガー・ブレグマン” さんによる “UTOPIA FOR REALISTS” を、超簡潔にまとめてみました。
それでは、また。
コンカズ
*この記事の英語ヴァージョンはこちらから
👉 Utopia Unveiled: A Summary of Rutger Bregman’s Insights